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ウクライナ危機と地政学

ロシア軍事侵攻から百日

ロシアが今年3月にウクライナに侵攻してもう百日。現地では激しい戦闘が続いています。ウクライナに西側からの武器供与あれど、ロシアが本気を出せば、ウクライナが勝てるはずありません。今、ウクライナ東部は今、徐々にロシア支配下に入りつつあります。

 

人類は20世紀、帝国主義の帰結として、二つの大戦争を起こしました。その反省に立ち、戦後に国際連合という調停機関を設立。五つの常任理事国には拒否権を与え、大国が結束して世界平和に取り組むことを明記。

 

しかし五大国が軍事侵攻したらどうするのかという視点は、国連設立時には考えられませんでした。今も国連の基本姿勢は「軍事侵攻をする国は日独」。日独両国への敵国条項は消えていません。

 

1962年、アメリカがキューバ危機を起こした時、国連は無力でした。アメリカが拒否権行使すれば、何も進まないからです。キューバ危機から四十年後、21世紀のイラク危機でも、あいかわらず国連はアメリカの言いなり。

 

そして今回、ロシアによるウクライナ危機。やはり国連は何もできません。これまでアメリカが散々、国連無視の行動を取ってきたのだから、今回はやらせてもらう、ロシアのプーチン大統領はそう言いたそうです。そう言われた時、アメリカには返す言葉がありません。

国境線と安全保障線

どこの国も、国境線だけでなく安全保障線を地図上に描いています。安全保障線とは国境の向こうに緩衝地帯を設定し、そこに軍事侵攻あれば、自国の脅威とみなすということ。かつて日本が朝鮮半島、満州へ出ていったのも、そこに安全保障線を引いていたから。山縣有朋は「利益線」、松岡洋祐は「生命線」と呼びました。安全保障線は地政学において必須概念です。

 

アメリカはキューバに安全保障線を引いていたから、キューバ主権侵害してもソ連のミサイル配備を阻止しました。今回もウクライナがロシアにとって緩衝地帯だから、ロシアはウクライナのNATO加盟に反対し、ウクライナへの西側ミサイル配備を許さないのです。

 

地政学から見れば、ウクライナ危機は「軍事侵攻したロシアが悪い」だけではすまされない根深い問題。かつてケネディ大統領が必死でソ連を牽制したように、プーチン大統領は今、体を張って西側と対峙。そもそもウクライナ主権を認めていないので「戦争」でなく「特別軍事作戦」。危機は長引きそうです。