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構造主義の共時性

近代言語学はソシュールとともに始まりました。ソシュールは言語を共時的に捉えた時、つまり、ある一点で止めた時の音体系、文法体系を言語学の対象と定めました。こう定義することで、言語学から歴史を排除し、科学としての言語学を成立させようとしたわけです。20世紀になったばかりの頃です。

 

ソシュール言語学は1920~30年代にプラハ構造言語学という形で花開きました。プラハという中欧都市でさまざまな言語学者が音韻論を展開。ヤコブソンやトルベツコイといったロシア人が活躍しました。

 

その後、ヤコブソンは渡米し、ニューヨークでレヴィストロースと出会います。レヴィストロースはヤコブソンから伝授された構造概念をブラジル先住民の神話と婚姻体系に適用し、精緻な分析を行いました。言語学から民俗学へ構造概念が適用されたことこそ、20世紀で最もダイナミックな知の営みでした。ここから構造主義が誕生します。

 

ソシュール言語学が共時的だったせいで、構造主義も共時分析にならざるを得ず、現実世界のダイナミズムを分析するためには限界がありました。構造主義では対象を静止させて分析する必要があったからです。

 

構造主義では変化を捉えることができません。力の発生メカニズムも謎のままです。構造主義の限界を克服しようとした哲学者たちが、70年代からポストモダン哲学を展開します。当然、ポストモダン哲学では成長や差延がテーマとなりました。